~キャッシュフロー計算書を徹底解説(キャッシュフロー計算書をつかった企業分析)~「財務3表の構造・仕組みと企業分析」まるわかり講座②~

「財務3表の構造・仕組みと企業分析」まるわかり講座

財務3票の中でも「キャッシュフロー計算書は分かりにくい」と感じる人が多いようです。

『財務3表(PL・BS・CS)の仕組み丸わかり講座』の第2回からは、
C/Sを特にピックアップして話をしたいと思います。

✓本記事の内容
キャッシュ・フロー計算書(C/S:Cash Flow Statement)について
キャッシュ・フロー計算書がカンタンに分析できるようになる


※なお、前回の記事では財務3表(B/S、P/L、C/S)について
・B/S、P/L、C/Sそれぞれの役割と表すもの
・そもそも財務3表は何のために存在するか?
について概観しました。
下記の記事となります↓(理解が不十分な人はご参照ください。)

~財務3表それぞれの役割を分かりやすく解説 ~「財務3表の構造・仕組みと企業分析」まるわかり講座①~
財務3表とは損益計算書(P/L: Profit and Loss Statement)、貸借対照表(B/S: Balance Sheet)、キャッシュフロー計算書(C/S:Cash Flow Statement)のことですが、この3表がどのように連動し、それぞれ何を表しているか、しっかり理解できている人は多くありません。 財務3表(PL・BS・CS)の仕組み丸わかり講座の第1回では、財務3表が何のためにあるか、そしてそれぞれ何を意味しているのかを理解します。

 

✓執筆者プロフィール
・日系の上場企業の経営企画部長
・MBA取得中(国内の経営大学院所属2020年記事執筆時点)
・28才まで営業畑を歩むが、経営企画へキャリアチェンジ。
新卒で住友系の機械メーカーに入社し、トヨタ自動車向けの営業部へ配属。1年程で退職。
その後、経営企画という仕事に出会ってIPOを主導し、IRや法定開示、コーポレート部門の仕事を広範に経験。
31才で上場準備室長として上場達成し、以降は経営企画部門一本。

 

C/Sから何が分かる?

 

実際の現金の動きが分かるC/S


P/Lでは、売上に直接対応する商品のみ原価として計上されるため、
売上化していない分の原価分は、費用として認識しません。
つまり、現金の出入りとは全く違う利益が計算されます。
また多くの場合、その他の費用でも費用として計上されるタイミングと支払いタイミングは異なります。)

かつ
・減価償却費(実際の現金支出はないが、固定資産の価値の目減りを計上しておくもの。)
・引き当て金(実際の現金支出はないが、支払予定の賞与やリスクに対する準備資金を計上しておくもの。)
などがあることも、現金の動きとP/Lの利益が異なる理由です。

こういった背景から必要性が発生し、
「実際の現金の動き」に着目したものがC/Sです。

C/Sの構造の詳細


C/Sは大きく分けて下記の3つから構成されます。

・営業活動によるキャッシュフロー
・投資活動によるキャッシュフロー
・財務活動によるキャッシュフロー

それぞれ企業活動の本質である「①資金を集める」「②資金を投資・利用した」「③利益を上げる」
のいずれかに対応しています。(前回講座を参照。)

下記、それぞれのキャッシュフローについてもう一歩詳細に見ていきます。

営業活動によるキャッシュフロー


営業活動によるキャッシュフローは「③利益を上げる」ことについての動きなので、
P/L項目に関する現金の動きです。
この営業活動によるキャッシュフロー(=本業の現金獲得力)が最も重要な部分です。
※営業活動によるキャッシュフローの中に
「小計」という項目と「営業活動によるキャッシュフロー計」という項目がありますが、
より重要なのは小計の部分です。

業種・業態にもよりますが、P/L上の営業利益、経常利益でしっかり利益が出ていて
かつ営業活動によるキャッシュフローがプラスになっていれば事業は順調といえます。

ただし、P/Lで利益が出ていて、かつ本業が順調であっても
営業活動によるキャッシュフローがマイナスになる場合があります。
それは、事業が急拡大している場合に起こりえます。

上記でも少し触れましたが、単純化した例で再度説明します。

例えば、売上が1億だとして、それに対する原価が5000万円で総利益(粗利)が5000万円、
販管費等を差引いた結果、営業利益で+2000万円だったとします。(非資金支出のことはいったん無視。)
ただし、事業が急拡大していて、
「1.5億円の仕入を行ったが、まだ売却が完了していない。支払は借入で賄っている。」
この場合のように、売上となっていなければ、仕入はP/Lに原価として反映されません。
一方、B/Sの商品在庫に1.5億円が加算され、
営業活動によるキャッシュフローにはマイナス1.5億円の影響が出ます。
そのため、営業活動によるキャッシュフローは結果的にマイナスとなります。

こういったことは、急拡大しているベンチャーや中小規模の会社には珍しくありません。

このような場合、P/L上では利益が出ているのに、現金が不足して支払いが出来ないという事態が起こりえます。
これを「勘定あって銭足らず。」などと言ったりします。
さらには、拡大を急ぎ過ぎて在庫過多になり、経企変動で売上が急にストップして
支払期限のみ到来してしまったりした場合、企業は倒産に追い込まれる場合があります。
利益出ているのに倒産する。これを「黒字倒産」などと言ったりします。


※ばお、上記の場合、借入を行った分は財務活動によるキャッシュフローに加算されます。

 

投資活動によるキャッシュフロー


投資活動によるキャッシュフローは「②資金を投資・利用した」ことについての動きなので、
B/Sの左側の項目に関する現金の動きです。
固定資産として本社ビルを購入した場合は大きくマイナスが出ます。
逆に、子会社を売却した場合などは逆にプラスです。

そのため、投資活動によるキャッシュフローは+でも-でも、
それだけで良い悪いということはありません。
全体のバランスと状況から判断します。

 

財務活動によるキャッシュフロー


財務活動によるキャッシュフローは「①資金を集める」ことについての動きなので、
B/Sの右側の項目に関する現金の動きです。
B/Sの右側ということは、「負債の増・減」「純資産の増・減」です。

負債に関することであれば
・銀行からの借り入れや返済
・社債の発行
つまり、借金による資金調達です。

純資産に関することであれば
・株の発行による資金調達
・企業自身が生み出した利益の繰り入れ(当期純利益=繰越利益剰余金)
 ※次回以降、財務3表のつながりの部分で説明します。
つまり、返済する必要のない資金となります。

内容としては分かりやすいと思います。

財務活動のキャッシュフローに関しても、
プラスなら良い、ということはありません。

業績拡大で運転資金の借り入れを行った場合はプラスとなります。
一方、業績が想定以上に好調で、財務基盤安定のために借入金の繰り上げ返済を行った場合などは
マイナスとなります。
この部分のみで「良い」「悪い」で切り分けられるものではありません。

 

 

C/Sの読み解き方

 

実際の経営はキャッシュに本質がある


これまで何度も述べてきましたが、P/Lというのは会計上のル―ルに従って計算されたものです。
そのため、実は会社によって、同じ取引でも費用計上、売上計上のタイミングは異なるのです。
さらに、良くない話ですが、P/Lは書類の融通や多少恣意的に操作することが可能です。

それに対し、現金というのはごまかせません。
上場会社では監査法人等による「会計監査」という厳格なものがあり、
四半期ごとに金融機関へ残高照会がなされるため、
現金残高に恣意性が入るありません。

実際の経営上の話としても、投資は現金の動きをベースに行われます。
倒産など企業の本当のピンチとは、利益で赤字になってしまうことではなく、
「現金がなくなること」なのです。

実際、人材採用や広告に費用を投下したために一時的に赤字決算になったとしても
会社の評価は高いままであり株価は高い、という例は国内外にも多くあります。

8つのC/Sタイプ


P/Lではどの程度効率よく利益を出しているかの成績が分かりますが、
C/Sにおいてはその形から企業の経営状態、考え方を読み取ることが出来ます。
営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)、投資活動によるキャッシュフロー(投資CF)、財務活動によるキャッシュフロー(財務CF)の符号(+-)により下記の8分類に出来ます。

C/Sの各キャッシュフローの符号による経営状況のタイプ
パターン 営業CF 投資CF 財務CF 企業イメージ 企業の経営状況
1 攻めの経営 本業でキャッシュを稼ぎつつ、借入や株の発行も行い、キャッシュポジションを高め、成長に向けた設備投資に投下している。営業キャッシュの量が多く、投資キャッシュが大きい場合、典型的な好調&攻めの経営の会社と言え、全体としてのキャッシュがプラスに保たれていれば戦略も十分で申し分無い。
2 財務体質強化 営業で稼いだキャッシュと、資産の売却で得たキャッシュで借入金を返済しています。意図的に借金返済をすることにより、金利の圧縮、自己資本比率を向上させ、財務体質の改善に取り組んでいます。営業キャッシュが+であり、返済余力があるため経営は良好ですが、不採算部門で保有している資産売却など改革中かもしれません。
3 キャッシュ
ポジション強化
全てのキャッシュがプラスである場合、営業が好調であるのに対し、何らかの固定資産等を売却する、有価証券を売却し、さらには借入を行って現金を増やしています。何らかの大きな投資、規模拡大、キャッシュポジションの改善を狙っています。
4 好調な
キャッシュリッチ
現金で稼ぎ出した資金を使って投資活動を行い、借入金の返済まで積極的に行っている。キャッシュポジションがかなり高い傾向にある。しかし、キャッシュが大きすぎると怠慢経営とも言え、成長が鈍化した業界の大手企業等、アクティブさに欠ける場合も。投資キャッシュが大きく成長意欲が高い場合には期待大。
5 スランプ 営業キャッシュがマイナスが惜しいですが、将来の投資を行っていることから投資キャッシュがマイナスです。借入も行って現状打開にチャレンジしているかもしれません。営業キャッシュがマイナスになっている理由を確認する必要があります。もし、在庫の増加等による多少のマイナスであれば、むしろ期待できる状況の場合もあります。
6 不調な
キャッシュリッチ
本業が不調にも関わらず、借入の返済を行うだけでなく投資も行っていることから、潤沢なキャッシュをもっているのでまだ余裕があります。上記4のように本業の経営状況が回復すれば安定企業に戻れます。
7 復活中 状況としては良くありません。本業が不調であり、借入の返済を行いつつ、資産の売却によってキャッシュを補填しています。内部留保(過去の利益の蓄積)が多く、自己資本比率が高いなどの場合は大丈夫ですが、営業キャッシュの改善が急務です。
8 経営不振 営業がかなり不調なため、運転資金の借り入れと資産売却により食いつないでいる状況で、会社の稼ぎ力が失われています。経営不調な会社に見られるパターンです。ただし、営業CFが大きなマイナスでなければ、問題ない場合もありますので、あくまで全体判断が必要です。

▶PDFはコチラ(CFによる企業タイプ)

一つ一つ見ていくと、当然の話ばかりですが、
C/Sでここまでイメージがつかめると思うと、多少の「目から鱗」ではありませんか?

+と-の大きさにもよりますが、企業の状況分析にはC/Sは
非常に有用なツールであることが分かって頂けるかと思います。

 

次回講座のご案内:~キャッシュフロー計算書を徹底解説(営業活動によるキャッシュフローと直接法vs間接法と作成方法)~(まるわかり講座③)~


次回は、C/Sについてさらに詳細な話をします。
営業活動によるCFがC/Fの中で最も大事な部分なのですが、ポイントとしては下記のとおり。

営業活動によるキャッシュフローには
①「直接法」と「間接法」という2パターンの作成方法がある

②営業活動のCFのは小計とそれ以下で2パートに分かれている

少々込み入った話も出てきますので、会計知識がない人にとっては少し難しく感じることもあるかもしれません。
下記リンクからアクセスできます。

▼次回講座▼
~キャッシュフロー計算書を徹底解説(営業活動によるキャッシュフロー『直接法』vs『間接法』とその作り方)~(まるわかり講座③)~
『財務3表(PL・BS・CS)の仕組み丸わかり講座』の第3回はキャッシュフロー計算書の中でも特に重要な「営業活動によるキャッシュフロー」(営業・投資・財務→3つのうちの1つ)について集中的に話をします。 ✓本記事の内容 キャッシュ...

 

 

 

コメント

  1. […] さて、次回はキャッシュフローについてもう少し詳しく解説します。下記リンクからアクセスできます。 ~キャッシュフロー計算書を徹底解説~「財務3表の構造・仕組みと企業分析」まるわかり講座②~ […]

  2. […] 今回より軽い話になります。 下記リンクからアクセスできます。 NEXT⇒~(投資・財務活動によるキャッシュフロー)(まるわかり講座③)…     未分類 シェアする Twitter Facebook はてブ Pocket LINE コピー […]

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